Medical treatment診療内容
症状から探す男性型・女性型脱毛症

男性型脱毛症
(AGA:Androgenetic Alopecia, male pattern hair loss)

AGA(男性型脱毛症)は成人男性に多く見られる脱毛症で、徐々に額の生え際や頭頂部を中心に髪が薄くなっていくのが特徴の疾患です。AGAは早い人では10-20代から始まり、30-50代にかけて増えていきます。AGAは進行性の病気ですので、何もせずにいると髪の毛は確実に減り続けていってしまいます。毛包が残存している場合は治療により回復する可能性がかなり高くなりますが、完全に毛包も消失してしまうと治療効果もかなり減弱してしまいます。ですので、できるだけ早くからの対策が非常に重要になってくるのです。治療するかどうか悩んでいるのならば、迷わず当クリニックで相談して頂くことをお勧めします。脱毛症の治療コストは本当に幅があり、当然その差は効果にも反映されるわけですが、早めの対策ならばそれほどコストのかからない治療で脱毛を止める、またはかなり緩徐に抑えることが可能ですので、できるだけ早くからの対策をすることに大きな意味があるのです。

現在では日本皮膚科学会からもガイドラインが公表されており、AGAは治療すべき疾患の一つとして捉えられています。というのも、AGAは命には関わりませんが、非常にQOL(Quality of life)に影響を与える疾患であり、積極的な治療が求められる疾患だからです。ただ、現状はAGAの治療は全て保険適応外の自費診療となってしまい、患者さんの負担が大きくなりがちです。また、まだまだ未承認の治療も多く、エビデンス(治る証拠)のある治療というものが少ないため、通常の皮膚科では行っていない治療も多くあります。それらも含めて当クリニックでは積極的に取り入れ、治療の選択肢を広げることで、できる限り患者さんに満足頂ける治療を提供できるよう心がけています。

AGAの原因

AGAは毛周期の中で、成長期が短くなり、休止期にとどまる毛包が多くなるために起こります。これには遺伝と男性ホルモンが関与していて、遺伝子背景としてX染色体や常染色体にその原因があることがわかっています。男性ホルモンは髭や胸毛などの毛は濃くする方向に働きますが、前頭部や頭頂部といった部位では軟毛化現象を引き起こします。これは髭や胸部にある男性ホルモン感受性毛包と、前頭部や頭頂部にある男性ホルモン感受性毛包ではその反応性が異なることから起こります。男性ホルモンの一つであるテストステロンは、これら部位の毛乳頭細胞に運ばれると5α-還元酵素というものの働きにより、より活性の強いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて受容体に結合します。DHTが受容体に結合すると、髭や胸部では細胞成長因子などを誘導することで、成長期が延長するため毛が濃くなるのですが、前頭部や頭頂部では様々なサイトカインを誘導することで毛母細胞の増殖が抑制されて成長期が短縮することで軟毛化現象が起こると考えられています。

AGA治療(男性)

AGAの治療に関しては、すでにガイドラインがあることから、それに沿った形でお話をさせて頂くのが、皮膚科医としては正しい姿勢だと思いますので、私見を含めた形でお話させて頂きたいと思います。ただし、ガイドラインは現段階でのエビデンスを元に作られたものですので、改訂を繰り返す度に様々なエビデンスが増えていくことで、その内容は大きく変化していきます。つまり、現状のガイドラインでは推奨されていないけれども、将来的にはもしかすると大きな可能性を秘めた治療も含まれているのです。今も今後も本当に行うべきではない治療なのか、それとも現段階ではエビデンスが乏しいために推奨していないだけなのか、ガイドラインを読み込むことで、その意図が伝わってきます。また、そこに現在の医療情勢をしっかりと見極めて、併せて考えることで、行うことが望ましい治療とそうでない治療の区別は可能と私は考えています。そのあたりに関しては私見を含めてお話しさせて頂いていますので参考にして下さい。なお、ガイドラインには各治療に推奨度がつけられています。

A: 行うよう強く勧める
B: 行うよう勧める
C1: 行ってもよい
C2: 行わない方がよい
D: 行うべきではない

の5段階に分けられています。これを参考に読んで頂けたらと思います。
それではAGAの治療についてですが、大きく分けて①内服、②外用、③注入療法、④LEDまたは低出力レーザー、⑤植毛術やかつら、になります。

  1. 現在男性型脱毛症に対して使用されている内服薬は、フィナステリド(プロペシア)、デュタステリド(ザガーロ)、ミノキシジルの3種類が知られています。プロペシアとザガーロはどちらも厚生労働省から認可を受けた薬剤で、エビデンスも十分にあり、ガイドラインでも推奨度Aと非常に高い評価を得ている治療薬です。どちらも先ほど出てきた5α-還元酵素の働きを阻害することで、DHTの産生を抑え、成長期をできる限り正常化し、軟毛化を抑制します。そして5α-還元酵素にはⅠ型とⅡ型があり、プロペシアはⅡ型のみを、ザガーロはⅠ型とⅡ型の両方を抑制します。そのため、ザガーロの方が効果が高いと言われています。実際、添付文書上の効能・効果として、ザガーロは「男性における男性型脱毛症」と記載されているのに対して、プロペシアでは「男性における男性型脱毛症の進行遅延」となっています。つまり、プロペシアではAGAの進行を遅らせる効果があるということ、ザガーロでは発毛効果も期待できる薬剤と考えてよい、ということなのだと言えます。なお、これらの薬剤は内服を中止すると、効果は全く消失してしまうため、脱毛の進行を抑制するためにも内服を継続することが肝要です。
    ミノキシジルに関してですが、実はミノキシジル内服の有用性に関して臨床試験は実施されていません。もともとミノキシジルは降圧剤として開発された薬剤なのですが、日本では認可されておらず、さらに男性型脱毛症に対する治療薬として認可している国はありません。しかし、この薬の副作用として全身の多毛症があることから、AGAに対する効果も期待され、医師が処方したり、一般の方が個人輸入で入手することがあり、医薬品医療機器等法の観点から問題視されています。確かに多毛症以外の副作用の報告は少ないようですが、利益と危険度が十分に検証されていないため、ガイドラインの推奨度はDとなっており、強く否定されています。さすがにガイドラインにおいて、現段階で行うべきではないとの文言がある薬剤を投与することは、皮膚科医としては妥当な治療とは言いがたいと思われますので、当クリニックではミノキシジルの内服療法は行っていません。ただ、将来的に安全性や有効性が十分に確保されるようであれば、投与も検討することとなると思います。


  2. 外用に関しては、いくつもの薬剤に関して報告があり、ガイドラインでも多くの薬剤が取り上げられていることからも、AGAの治療の主体は、今のところ外用療法であることがうかがえます。外用療法は全身的な副作用も少なく、安全に使用できることからも、治療を始めるハードルが低いと言えます。また、市販薬として購入できるものも多く、その点からも始めやすい治療です。外用薬としてはミノキシジル(リアップ)、アデノシン(アデノゲン、アデノバイタル)、カルプロニウム塩化物(フロジン液、カロヤン、アポジカ)、t-フラバノン(サクセス)、サイトプリンおよびペンタデカン(INNOVATE)、ケトコナゾール(ニゾラール)、ビマトプロストおよびラタノプロスト(ルミガンorグラッシュビスタ、キサラタン)などがあります。この中でミノキシジルの外用のみが、ガイドラインで推奨度Aの治療であり、使用が強く勧められています。ミノキシジルは血管拡張の効能があるため、発毛促進に必要な栄養素をより多く毛乳頭に届けることが可能となり、毛周期を正常化、発毛促進を誘導すると考えられています。アデノシンは推奨度Bで行うよう勧められる治療です。カルプロニウム塩化物、t-フラバノン、サイトプリンおよびペンタデカン、ケトコナゾールに関してはガイドラインでC1となり、行ってもよいとされる治療です。ビマトプロストおよびラタノプロストに関してはガイドラインでC2、つまり行わない方がよいとされる治療です。ただ、ビマトプロストおよびラタノプロストに関しては、現段階で十分な検証がされていないためにC2という推奨度になっています。ビマトプロストは睫毛貧毛症の治療において、すでに厚労省の認可を受けたグラッシュビスタという薬剤も発売されており、また実際、ヒト頭皮由来毛包の器官培養系でも発毛効果を示した報告があることから、睫毛以外にも発毛促進効果がある可能性が十分にあります。ただ、現段階ではこれらの薬剤を広範囲に外用する場合の安全性が確認されておらず、しっかりとした臨床試験も行われていないため、現状はC2となっていると思われます。また、これらの薬剤を広範囲に外用する場合には薬剤費が高額になることもガイドラインでは触れられています。ただ、治療費が高額になるのはこの薬剤に限ったことではなく、その他の、後述する成長因子などの注入療法も高額になる場合も少なくないことから、安全性が確保されるのであれば、十分に治療の選択肢になり得る治療なのではないかとは思っています。
    以上から、現状外用療法で選択するとすれば、やはりミノキシジルということになるのではないでしょうか。ただ、ミノキシジル外用初期に、休止期脱毛がみられることがあることが知られており、外用初期に効果を認めなかったり、むしろ脱毛が増えたとしても、しばらく継続して使用することが必要です。
  3. ガイドラインで触れられている注入療法として、成長因子導入と細胞移植療法の2つがあります。成長因子導入に関してガイドラインには脂肪組織由来幹細胞の培養上清由来物質との記載があることから、いわゆるHARG療法と呼ばれるもののことを指しているのだと思われます。最新のガイドラインが作成されたのは2017年、そして現在ではヒトの皮膚を用いた培養上清中の成長因子の導入も行われるようになってきており、当クリニックではそういった製剤である米国のBENEV社のGF Hair Care Complexを用いた治療を行っています。BENEV社は米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けた製薬会社であり、信頼性のある会社です。当クリニックではこの製剤を注射による注入ではなく、ダーマペンとの併用または単純塗布のどちらかでの施術で導入しております。ダーマペンとの併用が、より効果を上げますので少々コストは上がりますが、併用を推奨しております。詳しくはダーマペンの項でもお話ししていますので、そちらも参考にして頂けますと幸いです。また、アムニオジェニックス (AmnioGenix)という製剤の導入も行っております。こちらはダーマペンの項で詳しく説明していますので、そちらを参照して頂ければと思います。
    もう一つの細胞移植療法に関してですが、これは多血小板血漿(platelet rich plasma:PRP)療法を指します。これはしわやたるみの治療に用いられるものと全く同様な方法で、近年では美容医療だけではなく、整形外科領域や歯科領域などでも注目されている再生医療です。これらに関しては「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に則って施術する必要があるため、厚生労働省への届け出が必要になります。ガイドライン作成時はそのハードルは高く、これらの治療は先進医療の段階であり、安全性、有効性ともに十分に検証されておらず、広く一般に実施できるとは言い難いため、推奨度はC2の行わない方がよいことにする、とされていました。しかしながら、現在に至っては大きな総合病院だけではなく、通常のクリニックレベルでも容易に行える機材も開発されてきたことで、普通に一般に普及した治療となり、症例もかなり蓄積されてきており、その安全性、有効性の報告ともに格段に増えてきています。ですので、現状を踏まえて考えた場合、2017年時点のガイドラインでの評価のように推奨度C2の治療とするのはあまりに過小評価であり、C1~Bレベルの治療と考えてよいのではないかと思っています。おそらく今後の改訂ではそのような推奨度となっていくのではないかと私自身は考えていますので、当クリニックでは今後これらの治療を導入していくことも検討しています。
  4. LEDまたは低出力レーザーに関しては推奨度Bとなっており、エビデンスもあり、副作用もほとんどないのですが、その他の治療に比べると、効果がマイルドであることなどを鑑み、現状当クリニックでは施行しておりません。
  5. 植毛術は外科的手術となりますので、当クリニックでは行っておりません。かつらに関しては治療というよりはケアの範疇に入ります。併設のfido美容室で対応して頂けますので、ご希望の場合はご相談頂ければ紹介させて頂きます。

女性型脱毛症

2010年に初めて作成された男性型脱毛症のガイドラインでは、女性型脱毛症という言葉は使われておらず、「女性の男性型脱毛症」という言葉で取り扱われていました。しかしその後、女性の男性型脱毛症とされていた病態は、いわゆる男性の男性型脱毛症とは様々な面で異なることがわかってきて、現在では「女性型脱毛症(female pattern hair loss)という病名を用いることが国際的にも多くなってきました。具体的には、女性では頭頂部を中心とした比較的広い範囲の頭髪がびまん性に薄くなるパターンが多い、発症時期も更年期前後に多発する、男性ホルモン依存性では病態が説明できない場合もある、など先述したいわゆる男性の男性型脱毛症とは異なる点が多いのです。そのため、女性型脱毛症は男性型脱毛症と異なった原因で起きている可能性も高く、病態が異なっている以上、治療法もやや異なってきます。ただ、女性型脱毛症の原因、病態に関しては、残念ながらまだ男性型脱毛症ほどにはわかってきていませんが、ストレスや疲労、ホルモンバランスの変化、老化、過度のヘアケアなどが考えられています。とはいえ、男性型脱毛症と同様、QOLを非常に損なう疾患であり、特に女性においては当然のことながら男性以上にそれが顕著ですので、治療の重要性が高くなります。男性型脱毛症と同様、女性型脱毛症も無治療でいればどんどん進行してしまう疾患ですので、できる限り早い段階から治療を介入し、継続していくことが重要になります。


治療に関してですが、男性型脱毛症と同様に①内服、②外用、③注入療法、④LEDまたは低出力レーザー、⑤植毛術やかつら、と説明していきたいと思います。

女性型脱毛症の治療
  1. 男性型脱毛症と異なり、女性型脱毛症ではプロペシアやザガーロのエビデンスはなく、ガイドラインでの推奨度もDとなっており、行うべきではない治療とされています。それに代わり、当クリニックでは女性型脱毛症の治療のため、2種類の医療用サプリメントをご用意しております。いずれもサプリメントではありますが、クリニックで医師の診断のもと、処方されるものとなります。1つ目はビビスカル プロフェッショナルで、その有効性は9つの科学的な試験により裏付けられているとされています。特許成分である海洋性たんぱく質複合体AminoMar CTMを含み、その他にも発毛促進に有効とされるリンゴ抽出物やビオチンも含んでいます。パントガールなどの育毛サプリメントで効果がなかった方にも効果が期待できます。内服3-4ヶ月頃から効果が出てきて、6ヶ月後には大部分の方に効果を実感していただけるとされています。1日2回、1回1錠ずつ内服して頂きます。妊娠・授乳中の方、18歳未満の方、魚介アレルギーの方では使用できません。もう一つはパントガールというサプリメントで、ビビスカルが発売されるまでは女性型脱毛症に対する育毛サプリメントとしては唯一のものでした。パントガールには髪の材料となるケラチンやシスチンといったアミノ酸、髪の毛や頭皮などのためのパントテン酸カルシウムやビタミンBなどの成分が含まれています。こちらも内服3-4ヶ月頃から効果を実感して頂け、少なくとも6-12ヶ月の内服が推奨されています。1日3回、1回1カプセルずつ内服して頂きます。基本的には内服できない方はいませんが、妊娠中や授乳中は安全を期して内服しないことをお勧めします。
    これらはガイドラインでは提示されていない治療であり、現状十分なエビデンスがあるというわけではありませんが、ある一定の効果の報告があること、実は女性型脱毛症や薄毛に悩む女性が多く存在することから、当クリニックではこれらの治療を採用することとしております。




  2. 外用に関しては男性型脱毛症と同様にミノキシジルの外用がガイドラインでも推奨度Aとして、強く勧められています。ただし、男性型脱毛症と異なり、濃度に関してはガイドライン上、1%のものが女性型脱毛症には推奨されています。というのもの国内では2%のものの臨床試験が行われておらず、1%のものしか行われていないためです。欧米では1%, 2%, 5%のものを用いた試験が行われ、濃度が上がるにつれ効果も上がる傾向にありました。ただし、2%と5%の間では有意差がなく、5%の方が効果が高いというエビデンスは得られませんでした。しかし有意差はつかなかったものの、5%の方が効果が高い傾向にはあり、今後症例数が増えた検討がなされると、濃度が濃い方が効果も高いというエビデンスが得られる可能性があります。有害事象は濃度が濃くなると増えるとする報告と、変わらないという報告のどちらもあるため、濃度による有害事象の頻度の差に関してはいまだ結論は出ていません。

    まとめると、女性型脱毛症におけるミノキシジルの外用について、1%のものが最もよいのかどうか、現在のガイドラインからだけでは本当のところはまだわかっていないということだと思います。ガイドラインで1%のものが推奨されているのは、国内の試験が1%のものしかなく、その試験では有意差を持って効果があったので、1%を推奨するとしているに過ぎません。欧米では1%よりも2%の方が効果が高いことがわかっており、やはり男性同様女性でも、濃度が濃くなると効果も上がる可能性が高いのではないかと私は思っています。そして、有害事象に関しては濃度による差がはっきりしていないことから、女性型脱毛症の治療においても1%よりも濃度の高い製剤を使用する方がよいのではと考えています。ですので、当クリニックではまずは2%ミノキシジルを試して頂き、接触皮膚炎などの有害事象がないことを確認し、相談のうえでそのまま2%の外用を続けるのか、5%のものを試してみるのか、決めていきたいと考えています。本剤は1日2回使用、頭部全体を外用する場合は1回1mlを使用します。10プッシュで1ml程度となります。

    また男性同様、ミノキシジル外用初期に、休止期脱毛がみられることがあることが知られており、外用初期に効果を認めなかったり、むしろ脱毛が増えたとしても、しばらく継続して使用することが必要です。
  3. 注入療法、④LEDまたは低出力レーザー、⑤植毛術やかつら、に関しては男性型脱毛症と全く同様とさせて頂きますので、男性型脱毛症の項をご参照下さい。